解説民法 民法7条 後見開始の審判

解説民法 第8回

(後見開始の審判)
第七条  精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

成年後見制度は、平成11年に改正導入された制度です。
それまで禁治産制度という、基本的には、対象となった方は、取引から除外するという精神だったものから(また戸籍に載ったり、用語が差別的であることも問題)、それとは趣旨を逆にした、本人の意思や自己決定権の尊重、障害のある人も通常の生活を営むことのできる社会をつくるというノーマライゼーションの理念から制度設計されています。

「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く」
自己の行為を結果について合理的な判断をする力=意思能力のないことを意味します。
※意思能力については、 解説民法 民法3条の2  を参照

「常況にある」
常にという意味ではありません。時々、調子のよいときに判断可能なときがあっても、通常は事理弁識能力がないという場合を指します。

なお、裁判官は法律のエキスパートですが、医師ではありませんので、本人に事理弁識能力があるのかないのかを判断することは大変難しいです。
したがって、医師の診断なしに、後見制度が開始することは困難であると言えます。

「家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、・・・補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。」

家庭裁判所が勝手に後見開始することはできず、申立がないと後見は開始されません。(一方で「することができる」という表現がされていますが、客観的にこの制度の必要性を判断するということはなく、判断能力が要件を満たせば、裁判所は必然的に後見開始の審判を出す必要があります。)

なお、申立をしますと、裁判所の許可がないと取下げられません。取下げは本人が精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある状態であれば、まず許可されません。

本人の申立も可能とされており、全く話せないような状況でなければ、裁判所は、本人申立をできる限り許容しています。
これは、本人の残存能力を図り、本人の意思尊重をするという趣旨の制度ですので、本人の発言等がおぼつかないからといって認めないとするのは、不適当であるからです。

また、実務上ポイントとなるのは、親類については、四親等以内の「親族」のみ申立権があるというところです。親族の対象は、六親等内の血族(血のつながりのある間)、3親等以内の姻族(配偶者の血族)と配偶者です。
いとこや兄弟の孫のような血のつながりのあるものは4親等内で対象ですが、配偶者の家族(姻族)の場合は、3親等までしか親族としてカウントされません。
ですので、血のつながりがあれば、4親等と言えますが、姻族の場合は、親族の定義からして3親等までしか申立権がないことになります。