解説民法 民法9条 成年被後見人の法律行為

解説民法 第10回

(成年被後見人の法律行為)
第九条  成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。

「成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。」
原則として、取り消し可能ですが、一定の身分行為(婚姻、離婚等)については例外であるとされています。但し、身分行為が可能であるといっても、ご本人がそれについて判断できること(意思能力があること)が必要です。
なお、本条文は取り消すことができるとしていますが、民法3条の2によって意思無能力であることが「立証されれば」無効主張で、契約等をなくすこともできます。
相手方が争わなければ、立証も不要ですが、争われた場合には、意思能力がないことの立証をしないと契約は有効になります。
ところが、成年被後見人としての審判が下りていれば、そのような難しい立証など不要であって、簡単に契約等を取り消すことが可能となります。
このように、争いになったときに、成年後見が開始されているか否かによって、トラブルの解決がうまくいくのかどうかが変わってきます。

「日常生活に関する行為」
本人が生活を営む上で「通常」必要な行為です。
何が生活を営む上で通常であるかは、個々の事情によって総合判断されます。
典型的にはスーパーで食料品を買ったり、光熱費の支払をするなどは対象になるでしょう。

「日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。」
「この限りではない」というのは、この条文に基づいて取り消しができませんということを指しています。
ですので、被後見人が全く判断ができないような場面にあっては、意思能力がないとして、日用品であっても民法3条の2によって無効主張することは妨げられません。
(但し、立証の問題はついてきます。)

なお、後見人が「事前に同意して」行われた行為についても原則的に取り消しが可能であるとされています。(日常生活外の行為を除く)
そもそも後見人に事前同意権というものが法定されていませんし、それは成年被後見人に、事前同意を与えて単独で行動させることを許容することは、本人保護の上から危険であり、相手方からしても不安定となり、危険性が高いからなどとされています。

但し、これについては、後見人はその危険を承知で同意しているので、相手方がそれを信じたなら、相手方を保護すべきなどの反対説もあります。